『洗い屋の仕事とは』
「洗い屋」と言う仕事は聞き慣れないかたも多いかと思いますが、その仕事は、出来上がった建築物ならば、建築作業途中についた手油や汚れ、建築物についているバリなどの微細な箇所の修正を施す。
完成後、何年も経過した建築ならば、日々の手入れでは追いつかない頑固な汚れを、特殊な技術で取り除く。新築の数寄屋建築のお茶室は、更に雅な仕上がりとなり、年数経過した建築物は従来の姿を取り戻し、更に生きながらえることができる。
裏方で特に目立つことも、特殊なこともないように思っているのだが、大工さん達にとっては「出来上がりに通知表をつけられるみたいだ。」と言われたりもする。 |
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『道具の話』
洗い屋の三種の神器と言われるのは「ササラ」「手桶」「灰汁」でそれに加えて「鉋」と「こそげ」がある。
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その中でも特に洗い屋の命は、竹のササラ。ササラが上手に使えるかどうかで、扱える家の格が決まるくらい重要で、洗い屋野口の「ササラ」は、自ら毎晩4時間かけて、青々とした竹を裂いて作る。青竹の脂が汚れの脂を呼び、汚れを取る。4時間かけて作ったササラは、冷蔵庫に保管してその鮮度を保つ。
それでもこの手作りの「ササラ」は、4日も使えば、折れたり、汚れたり、脂が抜けたりして用済みになってしまう。
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洗い屋野口の「ササラ」は竹の腰を折らずにしなやかな仕上がりになっており、木を傷めることなくその汚れを取り除くことができる。このような「ササラ」を作れる人は他にはないと自負している。
ササラ作り以外、朝一番の仕事は「灰汁」(洗い用の液)作り。その日洗いをする建物の木の状態や汚れ具合を見定め、一日に必要な分量の液を準備するのである。
昔の灰汁は、米俵の藁を焼いて漉したものだったが、現在では、シュウ酸や苛性ソーダー、硫酸が主流である。
そして粋な黒塗りの「手桶」を持って、ササラを使って洗いの作業をする。 |
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洗う仕事の他に「削る」。
これは「鉋」と「こそげ」を使うのだが、出来上がった建物を削るのであるから、大工の道具とは違い工夫を施してある。
木を知る洗い屋は、梁の隙間や隅を丹念に手入れする。柾目も、逆目も、木の様子を見て巧みに鉋を入れ、鉋の入らない隙間は「こそげ」(細長い刃物)で削るのである。 |
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『仕事の裏話』
道具以外の大切な商売道具が「舌」。
洗い用の液作りに仕様するシュウ酸・苛性ソーダー・硫酸などは、ごく薄くすると言っても劇薬である。だが、その濃度を測るのは「舌」である。洗い屋野口は、朝の熱い味噌汁は決して口にはしない。
『一番大切なこと』
あたりまえの事だが、木は生きている。
建造物になった後も、木は呼吸をし生きている。
木を見極め、その寿命を縮める汚れを洗うことで、息吹を吹き込む。
洗いの仕事にかかっている時には、他の事は考えられない。
お施主さんを大切に大切に思っているから。 |
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